「海外向けの販路を広げたい」「越境ECを強化していきたい」——こうした方針を掲げるEC事業者は少なくありません。ただ、海外展開を検討する際に見落とされがちなのが「返品」です。国内で運用している返品ポリシーや不正対策の感覚を、そのまま海外にも当てはめて大丈夫でしょうか。
不正対策サービスを手がけるRiskified社が2026年に相次いで公表した調査記事では、消費者が「妥当な返品」と考える範囲が国によってどれほど異なるか、そして生成AIの普及が返品申請そのものの見極め方をどう変えつつあるかが取り上げられています。本記事では、この2本の記事をもとに、越境ECを検討・展開している事業者向けに内容を整理します。
そもそも「妥当な返品」の感覚が、国によってまったく違う
Riskified社の調査は、米国・英国・日本・ブラジル・シンガポール・メキシコ・中国の7市場、消費者2,091人を対象に実施されたほか、売上高2.5億~100億ドル規模の小売企業10社の経営層へのインタビューも行われたとのことです。記事は、この結果を踏まえて「一つの返品ポリシーがすべての地域に当てはまるわけではない」と結論づけています。
記事で紹介されているデータの一部を挙げると、次のような違いが見られます。
- 返品の頻度:中国では消費者の70%が「頻繁に、または非常に頻繁に返品する」と回答した一方、米国では約30%にとどまる。
- 日本:ワードローピング(試着目的で購入し、着用後に返品する)やブラケッティング(サイズ違いを複数購入し、不要な分を返品する)など、調査で共通してテストされた返品行動のいずれについても「容認できない」と回答した消費者がおよそ4人に1人にのぼり、7市場の中でも最も保守的な傾向が強い。返品を避けるために、あえて実店舗での購入を選ぶ消費者の割合も他市場より高いとされている。
- ブラジル:対照的に最も許容度が高く、試着目的での購入・返品や、家電製品を短期間だけ使って返品する行為についても「妥当」と考える消費者の割合が、他市場より高い。
- シンガポール:オンラインで見た写真と実際に届いた商品が異なる場合の返品について、約3人に2人が「妥当」と考えている。
- 英国:複数サイズを購入し、不要な分を返品する「ブラケッティング」について、45%が「許容範囲」と回答。
- SNSでの返品情報への接触:ここでの「返品に関する投稿」とは、返品を有利に進めるためのコツやテクニックを共有する内容を指す。中国では93%の消費者がこうした投稿を見たことがあると回答したのに対し、米国では60%が「見たことがない」と回答。返品を最大限に活用するためのノウハウが、SNS上で広く共有・学習されている地域とそうでない地域がある。
つまり、日本の消費者を基準に「これくらい厳しくしても大丈夫」と考えていたポリシーを、そのまま許容度の高い市場に持ち込むと、想定以上に高い返品率やクレームに直面する可能性があります。逆に、海外基準の緩やかなポリシーを日本にそのまま持ち込む必要もない、ということでもあります。記事は、日本のように返品に厳しい市場では、厳格なポリシーを敷いてもブランドイメージへの悪影響はほとんどない一方、ブラジルのように許容度の高い市場で同じ厳格さを適用すると、かえって顧客体験を損なう可能性があると指摘しています。
そこに輪をかける、生成AIによる「見極めの難しさ」
もう一本の記事は、この地域差に輪をかける要因として、生成AIの普及を挙げています。調査対象となった消費者の50%が、ChatGPTなどの生成AIツールを使って返品・返金の申請文を作成した経験があると回答。さらに85%が何らかの「戦略的」または「欺瞞的」な返品行動を「普通のこと」と捉えており、そうした行動をすべて拒否すると答えたのはわずか15%にとどまったとされています。
これまで小売業者にとって、「筋道立てて丁寧に書かれた申請文」はある程度、信頼できる申請の目安になっていました。しかし生成AIを使えば、誰でも簡単に説得力のある文章を作れてしまいます。記事では、業界フォーラムで詐欺対策の担当者の声として、次のような指摘が紹介されています。
破損品を受け取ったと主張するために、AIが生成した、あるいは加工したとみられる写真を提出してくるケースが増えている
つまり、「文章の完成度」や「写真の有無」といった従来の判断材料が、そのままでは信頼性の指標として機能しにくくなっているということです。記事は、こうした状況を踏まえ、申請内容そのものよりも「購入・利用履歴やアカウントの行動パターンといった情報」の方が、より確かな手がかりになりつつあると結論づけています。越境ECの場合、市場ごとに「普通」の基準が違ったうえに、その基準自体が生成AIによって書き換えられつつある、という二重の変化に向き合うことになります。
小売業者側の対応としては、返品理由の選択肢を絞り込む、返品期間を短縮する、返品された商品の検品を強化する、現金での返金からストアクレジットへの切り替えを進める、といった動きが紹介されています。
まとめ:越境EC事業者が押さえておきたい視点
2本の記事から見えてくるのは、返品ポリシーを検討する際に「自社(日本)の感覚」と「進出先の感覚」の両方を分けて考える必要があるということです。海外向けに販路を広げる際は、返品ポリシーや検品基準を日本の基準のまま持ち込むのではなく、進出先市場でどこまでが「普通」とされているかを踏まえて設計することが望ましいと言えます。
また、いずれの記事でも、返品にかかる実際のコストを消費者に伝えた場合、60%以上が「行動を見直す」と回答したというデータが紹介されています。返品ポリシーや発生コストの透明性を高めることは、地域を問わず有効な打ち手になりそうです。加えて、生成AIによって「申請内容の見た目」だけでは真偽を判断しにくくなっている以上、行動履歴やアカウント情報など、文面以外の手がかりを組み合わせて判断する仕組みも、国内・海外を問わず検討の余地がありそうです。
出典:
- Riskified公式ブログ「The new returns reality」(2026年6月公表)
https://www.riskified.com/blog/ai-assisted-return-claims/ - Riskified公式ブログ「What return behavior looks like around the world」(2026年7月公表)
https://www.riskified.com/blog/ecommerce-return-fraud-by-region/
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